ライル・リッツ研究
(2)ディスコグラフィー
モダン・ジャズ・ウクレレの先駆け、ライル・リッツ(Lyle Ritz)のウクレレがフィーチャーされたアルバムは8枚あります(うち4枚が共演盤)。2枚が1950年代末、残りが1995年歳以降に発表されたものです。
(楽譜集・DVDについては「ライル・リッツ研究(3)」をご参照ください。)
コメントの感想部分は筆者の主観ですので、あくまで参考程度に。
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How About Uke?
(LP:Verve, 1958 / CD: ユニバーサルミュージック、2003)
ライル・リッツの最初の録音です。次作「50th State Jazz」とともに、モダンジャズ黄金期に作られた貴重なウクレレ・ジャズアルバム。自身が"signature song"と呼ぶ「ルルズ・バック・イン・タウン(Lulu's Back In Town)」や、オリジナル曲「リッツ・クラッカー(Ritz Cracker)」、「Sweet Joan」などに聞かれるライル・リッツのコードワークは素晴らしく、彼のテクニックがこの処女作からすでに完成の域にあったことを伺わせます。ドラム・ベースを加えたトリオ編成に、曲によってフルートが加わっています。
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50th State Jazz
(LP:Verve, 1959 / CD: ユニバーサルミュージック、2003)
タイトルは、このアルバムがリリースされた年にハワイがアメリカの50番目の州になったことによります。曲によって木管アンサンブルやサックス、ビブラフォンが加わり、アレンジは前作より手が込んでいる印象。しかしシンプルな編成で聞かせる「Polka Dots And Moonbeams」のリリシズムもまたこのアルバムの聞き所でしょう。正統派ジャズばかりでなく、ポップス調あり、エスニック調ありと、ある意味、凝りに凝った作りのアルバム。これであまりに苦労したためか、ライル・リッツは以後長いことウクレレのアルバム作りから離れてしまいます。
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Time...'UKULELE JAZZ
(roy sakuma productions, 1995)
四半世紀以上に及ぶスタジオ・ベーシストとしての活動から引退し、ウクレレの世界に戻ってきたライル・リッツが、ハワイのロイ・サクマの求めに応じて録音したCD。ジャズと銘打っていますが、ビリー・ジョエルの「素顔のままで」のようなポップス色の強い作品も含まれています。アルバム・タイトルにも使われている「Time Has Done A Funny Thing To Me」はライル・リッツが映画「When the Line Goes Through」(Beverly Washburn、Martin Sheen 主演;1973年)のために書いたテーマ曲で、美しいメロディが印象的。原曲は4拍子ですがこのアルバムでは3拍子に変えて録音されています。
ハワイのバイロン・ヤスイ(b)とノエル・オキモト(ds)が加わった3ピースが基本。隠し味的にオキモト氏によるビブラフォンも入っています。
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Ukulele Duo 「ウクレレ・デュオ」
(ビクターエンタテイメント、2001)
「ウクレレの神様」オータサンとの共作。とりあげているのはジャズ・スタンダードが中心です。二人の演奏の「ノリ」はかなり性格が異なっていて、ときに合っているんだかどうだかわからないようなところがある(笑)のが面白い。使われているのは二人のウクレレのみ。シンプルの極地のようなアルバムですが、訥々と弾かれる二人のアドリブの交換は、なぜか聞いていて飽きさせません。お互いに本当に楽しんで演奏していたことが伺われるようなアルバムです。
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A Night of Ukulele Jazz :Live at Mccabe's
(Flea Market Music, 2001)
2000年にカリフォルニアの
McCabe's Guitar Shopで行われた、オータサンとライル・リッツのライブを収録。各々の単独ステージと、デュオのステージから成ります。間違えているところまで修正なしで収録されている臨場感(笑)たっぷりのアルバム。ライル・リッツのステージとデュオのステージには、ベース(Richard Simon)が加わっています。「Bluesette」のエンディングや、「Fly Me To The Moon」のイントロで聴かせるライル・リッツのソロは凄い。二人の共演ステージは、アレンジも練られていて、ウクレレアンサンブルの手本といいたくなるほど素晴らしいものです。
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No Frills
(Flea Market Music, 2006)
ライル・リッツが自宅のGarageBand(MACのソフト)を使って一人で作ったアルバム。タイトルの通り、ウクレレとベースだけの実にシンプルな構成で録音されています。ウクレレはいつものDGBE調弦(ハイD)のほか、3曲ほどローGのスタンダード調弦でも弾いています。ベースは打ち込み。本人が「自信作」というだけあって、コードソロ、アドリブともウクレレのプレイはとても充実しています。ただ、ベースは表情に乏しく(機械なので当り前)、録音技術の問題からか(なにせ本人がやっている)ウクレレの音もいかにもピエゾそのものって感じなのが少々残念。
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I Wish You Love
(CD Baby, 2007)
ジャズ・ボーカリストのレベッカ・キルゴア(Rebecca Kilgore)との共演盤。ライル・リッツはボーカルとのコラボをずっとやりたかったようで、その夢が実現したアルバムとなりました。ちなみに
キルゴアは1949年生まれなので、1930年生まれのライル・リッツより19歳年下。それでタイトルがI Wish You Love。ライルじいさんなかなかやります。1920年代〜40年代くらいに作られたスタンダードナンバーが選曲の中心。ウクレレのピエゾっぽさは相変わらずなのですが(ダイナミックマイクを使ってほしい)、その軽やかなコードワークとキルゴアの表情豊かな歌声は良く合っています。Dave Capteinがベースを担当、曲によりキルゴア自身がリズムギターを弾いています。
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Becky & Lyle Bossa Style
(CD Baby, 2009)
ふたたび19歳年下のレベッカ・キルゴアとの共作。「Becky & Lyle」と来ましたよ。基本的にボサノバやラテンっぽいリズムの曲で構成されています。前作がスタンダードナンバーだけで構成されていたのに対し、このアルバムではライル・リッツの書き下ろしオリジナル曲(1、3、12)が収められています。作詞はFlea Market Music の経営者にしてアメリカ・ウクレレ界のキーパーソン、Jim Beloff。そういえばオータサンの「Rainforest Waltz」なんかも彼の作詞ですね。このアルバムにはインスト・ナンバーも収められています。前作に続き寛いだ感じの好盤ですが、個人的には、ウクレレの音程が少々悪いのが気になります。