ライル・リッツが採用しているウクレレの調弦は、4弦から順にDGBEです。バリトンウクレレもDGBEに調弦するのが普通ですが、ライル・リッツはテナーウクレレでこの調弦にします。もう一つ、重要な違いは4弦のDをバリトン調弦の1オクターブ上にすることです。これはレギュラーチューニングのちょうど4度下ということにもなります。
左がレギュラー調弦(GCEA)、右がライル・リッツのDGBE調弦
ライル・リッツの弾くウクレレの柔らかく甘い響きは、この緩い調弦の効果が大きいと思います。
彼に私淑する僕としては、この調弦を試さないわけにはいきません。ウクレレを弾きはじめて間もない頃にテナー・ウクレレを手に入れて、さっそく4本全部の弦を4度分、緩めてみました。
そしてぼよんぼよんと力のない、こもった響きに愕然としました。
テナー・ウクレレはその名前にもかかわらず(テナーとは本来、アルトより低い声部を指します)レギュラー調弦にするのが普通です。つまりスタンダードサイズのウクレレ(いわゆるソプラノウクレレ)と調弦は同じです。弦長が長い分、当然テンションは高くなります。それに応じてボディもそれなりに頑丈に作ってあるし、ブレーシングの数も多い。なので、緩いテンションではそのボディを十分に鳴らすことはできないんですね。
それで次に考えたのは、4弦に張ってある弦を1弦に移し、2弦に張ってある弦を4弦に移し……というように、一つずつ低い音の弦を使うことです。3弦にはローG用の弦を使う。
これは良い案だと思ったのですが、しかしやってみると期待していた音とちょっと違う。弦が太くなる分、音の軽やかさが失われてしまうような感じです。
ライル・リッツがこの問題をどう解決しているかわかりません。マイクやピックアップでそれをカバーしているというのは大いにありそうなことです。もしかしたらライル・リッツの弾いている楽器が特別で、緩いテンションでもよく鳴るウクレレなのかもしれません。あるいは、弦に秘密があるのかもしれません。
直接には知ることができませんから、僕は僕で、いろいろ試してみました。
試行錯誤の経緯を書くと長くなるので割愛して、結論を書きますと、楽器については、古いものの方が良いような気がします。ライル・リッツがウクレレを手にした当時、テナーウクレレをDGBE調弦にするのが今より一般的だったのかどうかは、わかりません。でも、いくつか試した印象だと、古い楽器の方が緩くても鳴るように作られているような気がします。単に、材が乾いていて緩いテンションでも鳴りやすくなっているということなのかもしれません。
僕の手元でDGBEにして使えたのはギブソンのT-1(1950年代製造)、カマカのテナー(ホワイトラベル、70年代製造)、リジョイスのテナー・カッタウェイ(2000年代製造)です。リジョイスだけ比較的新しいですが、ここのウクレレは造りが雑なことで有名で、その雑さが幸い(?)してか、緩い調弦でも妙に良く鳴ります。
ギブソンのT-1(左)とリジョイス(Rejoyce)。どちらも手テナーサイズ。
弦については、比重が重く、その分細くできる材質のものが向いていると思いました。一般に、同じ重さの弦で比べた場合、太い弦(比重の軽い弦)は柔らかくまろやかな音になり、細い弦(比重の重い弦)は鋭く金属的な響きになります。金属的な響きがするくらいの弦の方が、緩くしたときにも輪郭をある程度保てるようです。
比重の重い弦といえば、フロロカーボン弦です。今のところ、僕はサバレスのアリアンスというクラシックギター弦を使っています。組み合わせは次の通り。
・1弦:サバレス アリアンス541J(1弦用ハイテンション)
・2弦:サバレス アリアンス542J(2弦用ハイテンション)
・3弦:サバレス アリアンス543J(3弦用ハイテンション)
・4弦:サバレス アリアンス542R(2弦用ノーマルテンション)
サバレス・アリアンス(Savarez Alliance)弦の袋。左がノーマル・テンション、右がハイ・テンション。
1、2、3弦にハイテンション弦を使っているのは、緩くしたときにも少しでもテンションを稼ぎたいからです。
ただ、このセッティングでも3弦は鈍すぎるように感じることがあります。テナーウクレレ用の
巻き弦の3弦を緩めて使うと具合が良いのですが、ウクレレ用の弦はLow-G弦以外バラ売りはしないのが普通なので、セットを買わないと入手できないのがもったいないところです。
こうした工夫をしても音量はそれほど出ないので、ライブではやはりピックアップを使います。
僕がYoutubeに上げた下記の動画では、この調弦でカマカのテナーを弾いてますので、興味のある方は聴いてみてください。これは生音をマイクで拾っています。